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安らかな在宅での死

先日、在宅緩和ケアサービスからKさんが亡くなったと連絡が入った。翌日、娘さんがわざわざ持続注入機を返却にきてくれた。在宅のナースが返却してくれるのに、自分で返却に来たのは、私たちにお礼が言いたかったからと…

Kさんは87歳の男性で、2003年に大腸、直腸のがんがみつかり、手術、化学療法、放射線療法、2006年にはリンパ腫の診断、化学療法を受け、在宅緩和ケアサービスの援助の下自宅で暮らしていた。
ビルダーでがんの診断の後は引退して、治療、療養の合間の、調子のいい時には奥さんと旅行したりして暮らしていた。息子さんが一人、娘さんが二人、皆結婚して家庭を持っている。

最近、全身状態が悪化、下痢があり、頻繁にパッド交換をしている奥さんが疲れているし、体位変換中にベッドの角であばら骨を打って、ケアに支障をきたす痛みがあるとのこと、奥さんに少し休憩してもらうためのレスパイとケア目的で入院してきた。

水曜日に入院してきたKさん、本人はうとうとしている。奥さんは彼よりも若く、しゃきしゃきしたちょっときつい感じの人、ナースへの話し方も何だかつんけんしている。あなた達は何時間ごとにパッドを変えるの?と詰問口調で聞いてくる。

とりあえずみてみましょうという事で清拭の準備をしてパッドを開けてみるとびっくり、尿管と直腸の間に婁孔のできているKさん、尿道からは便汁混じりの尿が出ているし、肛門からは尿混じりの下痢便、ほぼ持続的に出ている。周辺の皮膚は糜爛状態になっている。そっと拭いても顔をしかめるKさん、全身の痛みはどうという事はないが、この痛みが一番辛いと言う。

家では2-3時間ごとにパッド交換をしていたとのこと、夜も時間が来ると自然に目が覚めるようになってしまったという奥さん、最初のちょっと難しそうな人というイメージは吹っ飛んで、私は奥さんの苦労をねぎらい、床ずれも作らずこれまでやってきたことを褒めていた。

とにかくこの糜爛部の痛みを抑えるため、Confeel dressingを貼り、それが貼れない所にはCritic creamを厚く塗って皮膚を保護し、2-3時間ごとにパッド交換する事にした。KさんはConfeelのお陰で痛みが無くなった喜んでいる。
グエンもすっかり信頼してくれたみたいで、言葉遣いも変わってきた。

下痢が続く限りは皮膚の状態の改善は望めないので、医師と相談して下痢の原因になっているかもしれない抗生物質の中止、
全身の痛みのコントロールのためにHydromorphone 2mgとHaloperidol1.5mgの持続皮下注を開始

きっちり2時間後に再度パッドのチェックに行くと、グエンは“あなたに任せておけば大丈夫ね。”と満足の様子、今日は早く帰ってゆっくり休んでねというと、ほっとした様子だった。

グエンの予定では、二日だけ休憩して、金曜日には退院したいという。在宅緩和ケアサービスのナースからは、グエンが無理をしすぎているみたいだ、もう少し入院したほうがいいと思うとのコメントがあった。

翌日木曜日、グエンとこのことについて話し合った。彼女は、自分は彼に二日だけと約束したから、この一週間の間の弱り方を見ていたらあまり時間は残っていないと思う、自分がゆっくり休憩をしている間に退院のタイミングを失う事になるのが心配だ、だから金曜日には予定通りつれて帰りたいと言う。
彼女へのサポートの体制を聞くと、子供たちが順番に泊まる体制を話し合っているとのこと、それなら、全面的にその方向でサポートしましょうという事になった。

まず、OTに連絡をして、至急病院用電動ベッドを自宅に金曜日の午前中にと届けることを手配した。家庭のベッドよりこのほうがグエンの負担を軽くする。

皮膚糜爛部のケアのために必要な材料を持ち帰り用にパックした。

体位変換用のトランスファーシートの使い方を、グエンに何回かナースと一緒にやってもらうことで覚えてもらった。

これからKさんに起こりうること、その対処法について話した。
婁孔があり、抗生物質も中止したので尿路感染が起こるだろうということ、悪寒、発熱、せん妄状態が起きるかもしれないという事、パニックに陥って救急車を呼んでも彼の安楽にはつながらないということ、悪寒時は温め、発熱には冷やして、可能ならアセトアミノフェンを内服か座薬で投与して、必要な薬は出してあるのでちょっとでも不安な事があればすぐに在宅緩和ケアサービスに連絡すれば夜中でも相談にのってくれるし、必要なら来てくれるからと言うことを念を押した。

死期の迫っている彼にこれから起こるであろう変化について話した。
緩和ケアビクトリアは患者さん、家族のための様々なパンフレットを出している。ユニットではこうしたパンフレットを誰でも欲しい人が取れるように置いてある。グエンは前日死に至るプロセスを手にとって見ていたので、そのパンフレットを中心に、質問に答えながら話を進めた。

グエンはしっかりと迫りくるご主人の死を受け止めていて、何よりも家が好きな人だったから、家で安らかに死なせてあげたい、これで今までよりも自信を持って彼のケアができる、色々サポートしてもらって本当にありがたいと言ってくれた。

グエンは家族、友人のサポートもあり、リスクは高くないが、死別後の悲嘆のサポートのパンフレットも渡した。

退院時に持って変える薬として、持続皮下注とレスキュー用のHydromorphone, Haloperidol, そして、死前不穏、せん妄のためのMidazoram, 死前喘鳴のためのGlycopyrrolateの注射薬が準備された。

在宅緩和ケアサービスに連絡、退院時間と持続皮下注の交換時間を知らせ、退院サマリー、持続皮下注の指示、必要時投与の薬剤のリストをファックスで送付した。

準備万端、Kさんは救急車で金曜日の午後に退院した。

そして、土曜日の午後に亡くなった。

娘さんの話によると、帰宅後、もう下痢はなくなったとのこと、少しだけど、水分は取れていたらしい。

土曜日、うとうとしていることが多い状態だったが、家族皆と一緒に大好きなオーストラリアンルールのフットボールを観戦している間に亡くなったとのこと、ひいきチームがそれまで負けていたのに、Kさんが息を引き取った後、挽回して勝ったとのはきっとお父さんがあちらで応援したからに違いないと皆で話したのだと娘さんが涙ながらに語ってくれた。

息を引き取った後も、皆でベッドを囲んで、とにかくやさしい人だったKさんの話をしながら、フットボールを見ながら、6時間過ごしたのだそうだ。

本当にいいお別れができたんだなあと嬉しかった。

グエンの退院のタイミングを失う事が怖いからという直感は当たっていた。何よりも彼女の気持ちを大事に考えて、大急ぎで退院の手はずを整えて送り出した。私たちの関わった時間は丸二日に過ぎないが、その二日が、Kさんを下痢から開放し、皮膚の糜爛による痛みから開放し、グエンが安心して自宅でKさんを看取ることに少しでも貢献できたと思うと、緩和ケアナース冥利に尽きるという思いであった。

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滅多に患者さんのお部屋に行く事はないのに、Kさんにはとてもなついて添い寝している事が多かったレオ、Kさんは特別動物好きでもないのに、やたらと犬、猫に慕われる事が多かったらしい。家族の言うように本当に穏やかなやさしい人だったのだろう。

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コメント

短期間のすばらしいケアだったと思います。こうしたコーディネートを英語でスムースになさっていることも感服!

>本当に見事にスムーズにいったケースで嬉しくて紹介しました。いつもこんなにスムーズにいくとは限らない、毎日がチャレンジですね。でもこういうことがあるから、元気が出て、明日も頑張るぞって思えるんだと思います。

投稿: aruga | 2007年5月30日 (水) 00時47分

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